東京家政学院大学 Tokyo Kasei Gakuin University

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【学長メッセージ】新入生のみなさんへ(2017年度大学・大学院入学式告辞)

2017/04/27

新入生のみなさんへ(2017年度大学・大学院入学式告辞)

 

春らしい一日となりました。みなさんは「いつもと違うバスに乗って」、また新しい気持ちで本学にお出でいただいたことと思います。

 

新入生のみなさん、入学おめでとうございます。

 

また、新入生のご家族、関係者のみなさま、おめでとうございます。

 

今日、私はみなさんに、ひとりの日本人クリエーターについてお話しします。

 

世界的に著名なアニメ作家である宮﨑駿(はやお)さんは、いつも「怒っている方」という印象を私は持っています。たとえば、こんなこと………。

第52回ベルリン国際映画祭でGoldener Bär(金熊賞)を受賞し、2002年(平成14年)2月19日に行った帰国記者会見では、こうも語っています。

「日本語も使えないのに英語を覚えさせられて、火もつけられないナイフも使えないのにパソコンのキーだけ押せるようになって。そんな民族が健康に生きていけるわけがないじゃないですか。これはね、一軒の家庭でやろうとしても無理なんですよ。」

記者の質問、「日本のアニメ文化のあり方について聞かせて下さい」に対する答えの一部です。

この時の受賞作が『千と千尋の神隠し』(2001年公開)でした。『千と千尋の神隠し』は、未だに国内上映映画の興行収入で他を圧倒してトップの座を占めています。
それでも宮崎監督は怒っています。

ところで、この映画の粗筋、新入生のみなさんはもちろん、ご列席いただいているご家族のみなさまも、よくご存じのことと思います。
私は『千と千尋の神隠し』が、おとなも子どもも、さまざまな背景を持った人々がそれぞれの視点で観ることのできる、非常に深い奥行きを持っためずらしい作品だと思っています。


映画の冒頭は引っ越し場面、お気付きかも知れませんが、乗っている車はアウディ、四輪マークのドイツ高級車です。このことは、この家族に対するひとつの暗喩、子と親という家族関係の姿を暗示する仕掛けとして登場し、同じく車での移動を描いた『となりのトトロ』とは質的に異なる重さを持っています。
やがて、道を間違えて辿りついたトンネルも、あるいはその先にある「油屋(あぶらや)」に掛かる橋も、ちょうど私たちが日常使う横置きの「お箸」が「あちら側」と「こちら側」、つまり「結界」を設定する道具立てであるように、自分を守る者のいない脅威に満ちた異界へと迷い込む十歳の少女の、「戻れない」恐れを表象しているかのようです。

その異界のグロテスクな登場者たち、たとえば「カオナシ」を、まるで自分のようだと観る若者に、私は出会ったこともあります。私たちの世界、あるいは私たち自身の断片が形を変え具象化されて登場し、清と濁とが混濁する異界で、「千」は自分を取り戻すための道を、自分自身で探さなければならない、という境遇に投げ出されていました。

興味深いのは、千尋という名を奪われ、さらには自分をも失って行く「千」が、湯屋における利他的な行為を通じて存在感を得、自分を取り戻して行くこと、つまり十歳の少女が自分自身の力で自らのアイデンティティを取り戻して行く物語として描かれているのでは、という点です。私は、そこに宮﨑監督の怒りが込められた物語の展開と、他方で救いとを観て取れるように思っています。ちなみに、宮﨑監督は同じ記者会見で「ジブリの作品は大きなテーマとしてはその時代その時代を生きる子どもたちへの励ましだと僕は思っています」とも語っているからです。

前置きが長くなりました。みなさんに申し上げたいのは、もちろん東京家政学院大学がオドロオドロしい異界だということではありません。お伝えしたいのは、新入生のみなさんが大学で追い求めるべきは「私はどのような存在でありたいのか」、を「千」のようにみなさんご自身の知識、自らの努力で創り上げていくということです。もちろん、「千」の境遇とは違い、みなさんのご家族も本学の教職員も、みなさんの心強い味方になる筈です。しかし、大切であるのは、大学生という時代が、「あなた自身の努力」で自らを創造して行く行為の継続期間だということです。


東京家政学院大学の創設者である大江スミの掲げた理念、KVAのV、つまりVirtue(徳性)とは、自らの未来を創る努力を厭わない「温かき人格」を意味するものと、私は受け止めています。

新入生のみなさんが、ご自身の努力で「未来を創る」ために、90年と少し前にひとりの女性が築いたこの大学で、自らを創造する行為を、楽しく、真剣に行われるよう期待しています。

 

ご入学おめでとうございます。

 

 

2017年(平成29年)4月3日(月)

東京家政学院大学学長 廣江 彰

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