東京家政学院大学 Tokyo Kasei Gakuin University

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【学長メッセージ】6回目の3月11日に

2016/03/11

私の手元に河田惠昭『津波災害』(岩波新書)があります。帯に「必ず、来る!」という文字が躍るこの本を、防災に関心が強かったから繰り返し読んだわけではありません。そうではなく、著者が何を思ってこの一冊にまとめたのか、その後何を考えたのだろうか、ということでした。当時、まだ現役の教員であった私にとって、予告が現実のものとなってしまった時、研究者は何を思うのだろうか、が関心事の大きなひとつだったからです。

「津波避難で山道に入ったら、少なくとも10キロメートル以上は山道を上がることである」など、自動車での避難方法にこと細やかに立ち入り、他方では研究者らしく詳細で科学的な説得力を持って津波のメカニズムを解いたこの本が出版されたのは、2010年12月のことでした。私が最初に読んだのは出版されてすぐ、著者が「まえがき」に書いている「生存避難」に惹かれたからです。しかし、著者が訴えようとした「危機感」というメッセージを、読んだ直後の私は受け止めていませんでした。

翌年の3月11日、経験したことがない揺れが収まってから、私たちは大きな被害と混乱とを目の当たりにしました。それから、私はこの本を繰り返し読むことになります。

 3月11日、私は家族全員が、偶然自宅(東京)にいて心配もなかったので、直ぐゼミ生に連絡を取りました。返信があったのは翌朝。就活中で神田にいたゼミ生は、自宅にまでは帰れず、徒歩で大学に避難したといいます。「拡散」を訴える「流言蜚語」も飛び交う中、ゼミ生たちはそれぞれの判断で自分の選択をしていたことが、その後分かりました。

被災直後の避難、復旧・復興の過程で私が知るのは、重大で緊急な事態に直面した個人が自分自身を頼りに判断すること、またその判断が正しいと確信できる知識、の重要性でした。自分で判断し、迅速に行動する主体的な個人の集まりである組織の大切さも、同様に実感させられました。しばらくして、京都大学の防災研究者・林春夫教授の「率先市民主義」に出会いますが、河田教授も「これからの安全・安心な減災社会では津波に関する包括的な知識とそれに基づく行動」の重要性を説いています。

 今の時代、あるいはこれからの時代、個人が判断し、決断しなければならない場面はいっそう多くなっていくようにさえ思えます。

 

 今日3月11日。「東北地方太平洋沖地震」、いわゆる東日本大震災の日から6回目の朝を迎えます。5年の歳月は経ちましたが、2万人近くに上る亡くなられた方と行方不明の方々、そのご家族のために祈り、悲しみをこれからの世代に経験させないために、私たち生きる者が何をすべきかをあらためて考えるいち日にしたいと思っています。

 

2016年(平成28年)3月11日

東京家政学院大学 学長  廣江 彰

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