東京家政学院大学 Tokyo Kasei Gakuin University

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新入生のみなさんへ(2016年度大学・大学院入学式告示)

2016/04/07

「桜流し」の雨も上がり、キャンパスには生命(いのち)の息吹が溢れています。

新入生のみなさん、入学おめでとうございます。

また、新入生のご家族、関係者のみなさま、おめでとうございます。

 

今日、私はみなさんに、ひとりの日系アメリカ人についてお話しします。

 

彼と出会ったのは今から20年近く前、アメリカ本社企業の極東代表者として、彼が日本で仕事をしていた時のことでした。

間もなくして、彼は「CEOオフィス所属/シニアディレクター」という役職でアメリカアップル・コンピューター社に復帰します。どんな仕事なのかと尋ねる私に、「スティーブ・ジョブスが間違ったことをしないようにするのが私の仕事」と彼は笑いながら答えました。

 

スティーブ・ジョブス(Steve Jobs)といっても、若いみなさんは知らないかも知れません。

しかし、彼が世に送り出した製品は、みなさんも良く知っています。たとえば、i-Phone。もっと昔にさかのぼれば、世界初めてのパーソナルなコンピュータ、つまりお金持ちや権力を持つごく一部の人ではなく、誰もが使える個人向けの“Apple Computer I”を、1976年6月に666.66ドルで売り出しています。若い仲間たちとジョブス自宅のガレージで、本当はジョブスの寝室で始めたアップル・コンピュータ社は、その後i-Pod、 i-Pad、など、それこそ消費者が予想もしなかった「世界を変える」製品を世に送り出してきました。

 

前置きが長くなりました。紹介したいのは、一人の日系アメリカ人とスティーブ・ジョブスとのエピソード、2000年4月27日、私が担当していた授業にゲストスピーカーとしてお招きした講義からの一節です。

彼はアメリカで生まれ、ご両親の故郷である沖縄で幼小の一時期を過ごし、アメリカの大学を卒業します。彼が卒業した時代はコンピュータ関連産業の発展期。しかし、彼は誰もが選ぶ道を嫌い、大学では政治学を、卒業後には趣味を活かしスポーツカメラマンとなります。

 

ある時、彼はコンピュータ関連商品のコマーシャル撮影を依頼されました。何度撮影しても「ダメ出し」があったそうです。「ダメ出し」をしたのがスティーブ・ジョブス。初めての出会いで、彼は強烈な印象を与えられることになりました。

やがて彼は、スティーブ・ジョブスの下で、“Macintosh”というアップル社を象徴するパーソナル・コンピューター開発グループのメンバーになります。ちょっと難しい話しですが、“Macintosh”は英語専用パーソナル・コンピューターだったので、日本語で使うには新たなシステム開発が必要でした。

 

彼は開発担当に名乗りを挙げましたが、会社のエンジニア全員が「出来ない」と彼の企画である「漢字Talk」を否定したそうです。ただ一人だけ、新入社員が「出来るかも?」と言ったので、その新人ともう一人の社外メンバーを加え、3人の開発チームを結成することになりました。1985年に来日、それからの日々は開発結果を出すのにもっとも効率的な時間の使い方と彼の言う「66 (sixteen-six)スケジュール」を組み、16時間連続で働いて6時間寝るシフトを繰り返すことになります。

 

ところで、「漢字Talk」開発チームが発足するまで、100回を超える企画提案を行い、彼はそれを「101回の“NO”」と呼んでいます。新入生のご家族の方はご記憶にあるかもしれませんが、武田鉄矢主演のTVドラマ「101回目のプロポーズ」(1991年)が流行ったので、「101回の“NO”」と呼んだと思います。

101回のダメ出し。もちろん、そんなことをするのはスティーブ・ジョブスに決っています。102回目の企画書にようやくGOサインが出て、日本で仕事を始めることになり、「66(sixteen-six)スケジュール」で短期間に成果を出しました。“Macintosh”が多言語環境でサポートされ、世界に広まっていくのは彼の仕事、「漢字Talk」から始まると言われています。

 

このエピソードが教えることはただひとつ、「あきらめない、くじけない」ということです。

 

一度言って「NO」と答えがあったらあきらめてしまう、あるいは「NO」と言われるのが嫌で、そもそも言わない、という今の時代にはそぐわないことかもしれません。しかし、だからこそ「あきらめない、くじけない」は私たちの生き方として大きな価値を持ってきます。

彼は「あきらめない、くじけない」をマラソンに例え、「炎がないとマラソンは無理」と学生たちに語りかけました。大切なことは、自分の中に「燃えるような意志=炎」を持つことだと言うのです。

 

彼がいなければi-podもi-Tuneストアも生まれなかったとさえ言われています。その彼が学生に伝えたかったこと。それは、自分の中に「炎」を持つことと同時に、「未来は創るものだ」ということでした。

 

東京家政学院大学を開学した大江スミが、「家政学の理論と実際」を確かめる場として自宅に「家政研究所」を開設したのも、厳しい時代にあって「炎」を燃やし、「未来」を創ろうとした第一歩、と私は受け止めています。

 

新入生のみなさんが、ご自身の「未来を創る」ために、90年と少し前、ひとりの女性が築いたこの大学で、楽しく、実りある学生生活を過ごされるよう期待しています。

 

あらためて、ご入学おめでとうございます。

 

 

2016年(平成28年)4月4日(月)

東京家政学院大学

  学長 廣江 彰

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