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【学長メッセージ】2017年度(平成29年度)卒業式告辞 卒業生、修了生のみなさんへ

2018/03/20

2017年度(平成29年度)卒業式告辞

 

卒業生、修了生のみなさんへ

 

本日、東京家政学院大学は学部学生466名に学士号を、大学院学生3名に修士号を授与しました。卒業生、修了生のみなさん、おめでとうございます。ご家族、関係者のみなさん、おめでとうございます。

 

みなさんを送るにあたって、本日、みなさんの多くが着用されている「袴」にまつわるごく短いお話しをしたいと思います。

 

「卒業袴」という言葉が生まれるほど、今では卒業式の「正装」となった感のある「袴姿」は、いつ頃からなのか?気になっていました。

 

「卒業袴」のもっとも有力な説は、大和和紀のコミック、『はいからさんが通る』(『少女フレンド』、1975~77年連載)のヒロイン・花村紅緒から徐々に広がった、というものです。

 

『はいからさんが通る』は1975年から連載されたコミックですので、卒業生・修了生のみなさんが生まれるずっと前のこと。みなさんはご存じないかも知れません。

 

時代設定は大正時代。ヒロインの花村紅緒について、作者は武内直子との対談でこう語っています。

 

大正時代に16~17歳っていうと女学生だね、だったら袴にブーツだね、って感じでした。*1

 

花村紅緒は「女学生」にして剣道の達人、竹刀を持たせれば向かうところ敵なし、と描かれています。その装束の一端が、明治時代の俗謡『ハイカラ節』で唄われる「背なに垂れたる黒髪に/挿したるリボンがヒーラヒラ/紫袴がサーラサラ」という、長い黒髪、リボン、紫袴の三点セットでした。

 

玉川大学教育博物館所蔵、1874年(明治7年)の錦絵『訓童小学校教導之図』で描かれた教室風景には、仙台平袴姿の女性教員がみえます。女性教員は和装での働きやすさのために、「男袴」を取り入れたものですが、やがて「袴」姿は女学生にも浸透して行きます。明治時代の洋風化に伴って、職場や学校では椅子と机の使用が日常となり、和服のままでは裾が気になるなど、何かと不便が生じたからといわれます。

 

 

夏目漱石の『吾輩は猫である』(1905年、明治38年)にこのような件があります。

…突然妙な人が御客に来た。十七八の女学生である。踵のまがった靴を履いて、紫色の袴を引きずって、髪を算盤珠の様にふくらまして勝手口から案内も乞はずに上って来た。是は主人の姪である。

 

ところが、この「袴」が世の非難の対象ともなりました。

みなさんが本日着用している袴は、「女袴」、あるいは「行灯(あんどん)袴」とも呼ばれ、男性が着用していた「男袴」とは異なっています。しかし、明治時代、女性が和服に併せて「袴」を着用するようになった当初は、「男袴」を用いていました。

 

1875年(明治8年)10月8日の「読売新聞」に、こんな投書があったといいます。

女子といふものは髪形から着物までも艶くして、総てやさしいのが宜いとおもひますに、此節学校へかよふ女生徒を見ますに、袴をはいて誠に醜くあらあらしい姿をいたすのは、どういふものでありますか。*2

 

和装で働く、あるいは学ぶに都合良い袴が「男袴」では「醜くあらあらしい」となれば、今度はスカートタイプの「女袴」が広まることになります。花村紅緒は、矢絣の小振袖、紫の「女袴」にブーツといういでたちで描かれ、今日のみなさんの姿とほぼ同じになっています。

 

「男袴」から「女袴」へと移っても、何故「袴」なのか?

当時、「袴」に込められた機能性や美意識にとどまらず、移り変わる時代の姿が映し込まれている、学ぶこと、働くことで社会との関係性を強めて行く女性たちが、「袴」を通じ、まさしく変貌する社会の中に自分たちの「居場所」を主張し始めた、その「声」が聞こえるように思えます。

 

本学創設者の評伝、『大江スミ先生』の収録写真に写る、1925年(大正14年)4月の学生たちは、ちょうど、みなさんの今日と同じ姿をしています。みなさんが社会に出る今日この日、あらためて「袴」に込められた時代の「声」を聴く、も良いかも知れません。

 

「明日の日本」を創る気概に溢れた大学として創立された本学から、今日、みなさんを次の社会に送り出せることを、私たち教員・職員は心から喜んでいます。

卒業生、修了生のみなさん、おめでとうございます。

 

平成30年3月19日

東京家政学院大学学長

廣江 彰

 

*1 対談:https://frau.tokyo/_ct/17130597

*2 参考資料「第148回常設展示 女學生らいふ 平成19年6月21日(木)~8月14日(火)於 国立国会図書館東京本館 本館2 階第一閲覧室前

https://rnavi.ndl.go.jp/kaleido/entry/jousetsu148.php#001

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