東京家政学院大学 Tokyo Kasei Gakuin University

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【学長メッセージ】2018年度(平成30年度)卒業式告辞 卒業生、修了生のみなさんへ

2019/03/19

2018年度(平成30年度)卒業式告辞

 

卒業生、修了生のみなさんへ

 

本日、東京家政学院大学は学部学生408名に学士号を、大学院学生4名に修士号を授与しました。卒業生、修了生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。

ご家族、関係者のみなさん、おめでとうございます。

 

みなさんを送るにあたって、みなさんがこの世界に誕生したちょうどその頃世に出た、ひとつの長編アニメーション映画から、ごく短いお話しをしたいと思います。

 

みなさんの中にも、あるいはご家族、関係者のみなさんの中にもご覧になった方は多く居られると思いますが、アニメーション映画、宮崎駿監督の「もののけ姫」が劇場公開されたのは、1997年(平成9年)7月、本日卒業するみなさんが、まだまだ幼い頃のことでした。

 

 どんな物語なのか。パンフレットでは、こう説明されています。

 

 かつて この国で/神獣シシ神の首をめぐる/人間ともののけの戦いがあった。

 惨劇の中で出会う/アシタカと少女サン

 サンは人間の子でありながら/深い森に棲む獣に育てられた「もののけ姫」だった。

 

 国語辞典には「もののけ(物の怪)」を、「人にとりついて祟りをする死霊・生き霊、妖怪の類」との説明があります。映画では、人間の子サンは、生贄として捨てられたその生い立ちから「人間を許すことのできない」ヒロイン、自然の中にあって人間の子でありながら人間と対峙する「もののけ姫」として描いています。

 

「もののけ姫」、サンはアシタカと遭遇し、戦った際にこう言い放ちます。

< 人間を追い払(はら)うためなら生命などいらぬ!! >

 

 人間と人間、自然と人間、あるいは「森」と「開発」との対立を暴力的に描いたとも受け取れるこの作品は、善と悪との境目をなくし、あたかも私たちの現実社会のように、その中で翻弄される私たち、つまり「アシタカ」の立ち位置を危うくしていきます。

 

 ところで、「もののけ姫」が“Princess Mononoke”として、1997年10月末、アメリカで公開上映されると知ったとき、善と悪とが明晰なハリウッド映画に馴染んでいるであろうアメリカ人にその内容がどう受け止められるのか、私は強い関心を抱きました。

 というのも、唯一絶対の神を信仰する多くのアメリカ人にとって、土着の色に染まった、また解決のないこの映画が受け入れられるだろうか、と疑問だったからです。

 しかし、“Princess Mononoke”は興行収入・観客動員数ともに記録的となりました。ストーリーの複雑さも、哲学的で美しく構成され、善悪の区別がはっきりしないからこそ面白い、とアメリカの映画批評で称賛もされました。このことは、日本とは異質な文化を持つ他の多くの国々でも、作品の意図が受容されることを意味します。

 

 意志が複雑に絡み合って衝突する物語の全体構成に私が看るのは、「生きろ」というたったひとつのフレーズです。人間を排除するために自らの命をも惜しまないサン、自らの命を賭してサンを守ろうとするアシタカ、自然と自然の中の生き物たち、自然を浸食する人間、また人間同士の命の奪い合い、差別され、歴史から忘却される人々、「タタリというならこの世はタタリそのもの」を射抜くのは「生きろ」という叫びに他なりません。

 

 森と人間が「共に生きることはできる」というアシタカに、母親である犬神「モロの君」が返す言葉、「どうやって生きるのだ。サンと共に人間と戦うというのか」に対し、アシタカはこう答えます。「ちがう!!それでは憎しみをふやすだけだ」

 

宮崎駿は、初演の舞台挨拶で観客にこう語りかけました。「損得ではなくて、生きるということ自体にどういう意味があるのかってことを問わなければならない時代がきた」。

アシタカの「生きろ」という叫び、「共に生きよう」という意志、それらは私たちが暮らす現実社会のもたらす葛藤であるように思えます。

 

 「もののけ姫」を題材に私がみなさんに伝えたいこと、それは「生きよ」、「共に生きよう」というアシタカの言葉の重さを、これからみなさんを待っている世界の中で日々感じ取って欲しい、ということです。

みなさんが本学の現代家政学科、健康栄養学科、生活デザイン学科、児童学科、人間福祉学科でそれぞれ学んで来たのは、自分自身に対して、あるいは他者に対して「生きよ」、「共に生きよう」とするための技術(Art)、知識(Knowledge)、徳性(virtue)に他ならない、と思っています。

 

「家政学」という、「生命(いのち)のつながり」を対象とする学問領域で学んだみなさんを、世界は大きな期待を持って迎え入れようとしています。世界を、「共に生きる」理念に立った社会へと変えていく役割を、これからみなさんが担う。その期待を込めて、今日、みなさんの卒業を、私たち教員・職員は心からお祝いします。

 

卒業生、修了生のみなさん、あらためてご卒業おめでとうございます。

 

                                                                                                 平成31年3月19日

東京家政学院大学学長

廣江 彰

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