現在、私たちの社会も物価高騰で悩まされていますが、江戸時代にも同様のことがたびたびありました。幕末の開国の影響など、社会状況が不安定な中で、物価が上昇し、民衆による米屋の打ち壊しなどが起こりました。この展示では、大江文庫が所蔵する江戸末期に描かれた物価高に関する風刺画を紹介します。
風刺画とは、社会や人物などへの不満などを遠回しに、皮肉をこめて描いた絵です。
①富士山諸人参詣之図 慶応元年(1865) 一雄国輝(二代 歌川国輝)
富士参詣は、富士山を信仰する人びとで講が作られ、江戸時代から民衆信仰として広まりました。この絵は、富士参詣の様子を描いた絵ですが、その背中や笠に文字が描かれています。富士山に登っている人びとの背中の商品は値上がりしたもの、参詣が終わって山を下っている人の着物などに描かれているのは、物価が下がった商品ともいわれているようです。味噌や大豆、桶、しほ(塩)、紙などは登る人に描かれています。いっぽう、下山の人びとには、油、竹、香物などがみえますが、薄くなってはっきりしないものもありますが、探してみて下さい。
②時世(とうせい)のぼり凧(いか) 慶応2年(1866)
これは、凧の絵に値上がりした商品名を書いてあげている図です。高くあがった凧ほど物価が高騰したことを示しているようです。米、むぎ、茶、酒などは高いようですし、食べ物以外では、紙、絹物、本、人足などの人件費も高騰していることがわかります。油は、おそらく灯火用の油が中心だと思われます。ここでは高騰していますが、富士山の参詣では、下山している人に書かれています。一つずつ当時の物価と照らし合わせてみると、面白いことが発見できるかもしれません。大江文庫の画は、色がありませんが、調べてみると青と肌色などの色つきのものがあったことがわかります。
③樹上商易諸物価引下図 慶応元年(1865)重政(三代 歌川広重)
この図は、値上がりした商品を木の上から引きずりおろそうと綱を引いている図です。右上に米俵が見えます。米はいつの時代も主食として欠かせないものでしたので、米騒動も起きたのでしょう。酒、紙などが高騰していたことは、たこあげの図と同様です。木の幹のところには、二八そば、大蒲焼、すし、豆腐なども値上がりしたことを示しています。左から3人目の人の頭の上に「ぶた」とみえるのは、豚のことでしょう。とくに幕末には豚鍋が流行したようです。