研究分野「音感受」の講義
研究分野について教えてください。
子どもが、身の回りの音や人の声・音楽からその印象を感じ、共鳴し、感情が起こり、さまざまな連想を引き起こす行為を「音感受(おとかんじゅ)」と名づけ、研究しています。例えば、手のひらに落ちる雨、レインコートに当たる雨、そして水たまりに落ちる雨・・・。そのどれもが違う音だと言う子ども。どんぐりも、枯れ葉の上や湿った地面など、落ちる場所が変われば音も変化し、風が吹けばまた新しい音が聴こえる。大人が気づかない音の世界に子どもはとびきり面白い発見をしていて、目を輝かせてそのことを教えてくれます。
本学科には、保育士や教師をめざす学生が多くいます。夢中になって耳を澄ませる子どもの感受性に「おもしろいね!」と共感し、「どうして音が違うのかな?」と共に探究する保育士や教師になってほしい。そんな願いを込めて、子どもの音感受の事例から学ぶと共に、学生自身が音感受を体験しながら、どのように実践していくかを考える講義を展開しています。
具体的には、どのような講義なのでしょうか?
本学(町田キャンパス)は、自然が豊かな場所にあるため、教室の外で講義をすることもあります。学生それぞれが好きな場所で1分間、目を閉じて周囲の音にじっと耳を澄ませ、聴こえた音を書き出してサウンドマップを描いたり、それを声や身の回りのものを使って表現したりすることもあります。よく響く場所を探し、その環境と対話をしながら図形楽譜を描いてその場に合う楽器音を探して演奏することも体験しますが、今年度は屋外の階段でボディーパーカッションをする学生もいました。学生たちは、「音感受」の体験をきっかけに、体の諸感覚を活性化させ、子ども時代の感性との再会を楽しんでいるように思います。
「好き」をとことん伸ばす。4年間での学生の変化
音感受を学んだ学生の変化について教えてください。
ある学生は、「子どもはパピプペポの音が好きなのではないか」と問いを立てて、子どもが半濁音と濁音の違いをどのように捉えているのかを検証する卒業研究に取り組みました。具体的には「パコポコ」と「バコバコ」、「ペチャペチャ」と「ベチャベチャ」のように、半濁音と濁音をそれぞれ含む対のオノマトペを作成して子どもに聴いてもらい、その音からイメージされる感情を絵カードから選ぶ調査をしました。またある学生は、好きなテーマパークを題材に、パーク内のあらゆる場所で流れるBGMや音の演出を調査・分析してサウンドマップを作成し、夢の国の仕掛けを音から解き明かしました。
卒業研究では、私の研究室には音や音楽に興味をもった学生が集まってくるわけですが、本人が「好き」なことをテーマに研究を進めることが大事だと思っています。ふだんは受け身の学生も、自分が「面白いと感じる」分野であれば自然と主体的になります。こちらから一方的に教えるのではなく、本人がもともと持っている感性や素質を引き出すのが教師の役割です。自らが考えた研究テーマを追究して、「面白かった!」と満足そうに4年間の学びを終えて巣立つ姿は嬉しいですね。
家政学は、人との関わりを学ぶ社会生活の根底にある学問でもある
学生と接する上で大事にしていることを教えてください。
学生を数としてみるのではなく、人格をもった一人の存在として、一人ひとりと向き合うことを大事にしたいと思っています。卒業後、ふとした瞬間に、「あの時の話はこういうことだったのか」とか「今話していることは、大学時代に先生も言っていたな」など、学生時代の体験や学びを思い出してもらえたら嬉しいですね。
卒業時、「この大学に来てよかった」と思ってもらえる大学でありたいですね。コロナ禍の初年度、卒業式の日に研究室にやってきた学生の相談は、就職先が倒産してしまったという内容でした。かねてから保育者に向いていると思っていたので、すぐに心当たりの園長先生に連絡し、おかげさまで無事就職できました。最近、彼女が働く園に伺いますと、子どもに寄り添い、一人ひとりの言葉を拾いながら、子どもの気づきや感受を深める言葉をかけていました。卒業生のそうした姿に、私の方が学びをいただいているのです。こうした循環は本当に嬉しいですね。
児童学科に所属する私にとって、本学が中心に据えている「家政学」は、社会でどのように人と関わって生きていくかを学ぶ学問だと思っています。学生の皆さんには、資格取得や専門分野だけではなく、友人や教職員と関わり対話するなかで、さらには環境と対話する(環境の声を内的に聴く)ことを通して成長していってもらいたいですね。
受験生・保護者へのメッセージ
最後に、受験生と保護者へメッセージをお願いします。
大学へ進学するにあたって、授業についていけるかな?友達はできるかな?と、不安もあると思います。でも本学は、人とのつながりを大切に思う在学生、学生さんの将来を共に考え全力でサポートする教職員がいます。だから、どうぞ安心して入学してきてください。キャンパスでお会いできるのを楽しみにしています!
取材・執筆:貝津美里